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あゝ、素晴らしき哉、映画

どんな時でも、どんな人でも楽しめる映画の魅力を勝手気ままにレビューします。1人でもこれを見て映画の世界を楽しんでもらえたら本望です。

上映禁止⁉︎超過激問題作『無垢の祈り』映画レビュー

今年のカナザワ映画祭でプレミア上映され、衝撃的な内容から話題になっていた映画『無垢の祈り』。

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 原作はホラーはき小説や猟奇的な物語を数多く生み出し、その特異な世界観が賛否両論を巻き起こす作家、平山夢明の同名短編小説。

2007年度「このミステリーがすごい!」において第1位に選出された短編集「独白するユニバーサル横メルカトル」に収録された本短編はページと短いながらも容赦のない暴力描写と少女に対する醜悪な性描写、深い余韻を残す結末まで高く評価された作品であった。

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平山夢明の描く世界そのものが実に映像化しにくい(倫理的な面を含め)ものであると同時に、文字表現ならではの異様な空気感から、映像化は難しいものとされてきたが、亀井亨監督がまさかの実写化。

 輪廻に憑かれた母と、転がり込んできただけなのに、圧倒的な鬼畜ぶりを発揮する義父と暮らす娘フミ。通う小学校ではおばけとナジられ、教科書の角で殴られる。家に帰っても暴れる父の暴力に怯え耐えるだけの日々を過ごす。学校の帰路では不潔で息の臭そうな(原作では完璧な描写で息の臭さが表現されている)おっさんに、ピカチュウをダシにしてイタズラされる始末。

 そんなフミの住む街で連続して起きる猟奇殺人。人の所業とは思えぬ死体の損壊ぶりにメディアでも大きく騒がれていた。そんななか家の近所に暮らす中学生の と話し、連続殺人鬼に興味を持つフミは、事件現場へ1人で出向き、壁にメッセージを残し始める。最初はちょっとした好奇心のようなもので書いていた言葉は、エスカレートする義父の暴力により、次第に祈りにも似た「アイタイ」という言葉に変化していく。というのも、現場でイタズラされたおっさんの“耳”が落ちていたため、少女少しばかりの希望を抱いたのだ。

終わることのない暗黒の毎日で、ついに母が狂ってしまったとき、フミは走り出す。その先にある、原作とは異なる結末は絶望なのか救済なのか…。

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 この作品、とてつもなく面白いです。もともと原作を読んでいて、平山夢明の世界自体にゾッコンな自分だが、正直「独白する〜」で「無垢の祈り」は印象が薄かった。身近な世界に異常すぎるキャラや設定が超然と存在する違和感こそが平山夢明の魅力だと感じていたからだ。だから、あまりにも近すぎる世界と登場人物にあまり惹かれるものがなかった。彼の作品だったからこそ。

しかし映像になると、このあり得る不条理が最大級のインパクトとなる。この狭い無情な世界、こんなにも理不尽な人間は確かに存在すると見せつける。加えてこの映画には、悪が存在しない。フミの義父クスオなど、自分が悪だとは微塵も思っていない。自分の世界観と正義に則って生きているからだ。そんなクスオとフミの会話(ほぼクスオの独白)は、異常な考えを正論のようにぶちまけることで最高に気持ちいい“違和感”が出ている。殺人鬼はこの作品の中では神のような存在として描かれるが、こいつにも軸があって対象を選んでいる。そのなかを生きる、フミは言葉少なく行動で語る。まさに無垢な存在として描かれる。人間それぞれの意思が描かれることでひき込む力は抜群。

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また、問題作と銘打ってはいるが、グロ描写は最低限。しかしかなりエグい解体シーンなどが突然ぶっこまれるので絶妙。問題作の理由は徹底して少女を絶望に叩き込む展開と、そこには妥協しない演出だろう。どこに行っても何をしても微塵も光の見えないフミの生活、学校では頭を割られ、ランドセルは切り刻まれる。家では義父の暴力に耐え、毎日具無しのインスタント麺を汚い水道水を使って食べる。唯一何も起きないのが、殺人現場にいる時のみというカオスさ。工業地帯が広がるロケーションもどんよりとした曇りばかりで、観ているこちらまで生気を搾り取られるほど。極めつけは傀儡の演出。これはやられた。直接描写するよりも断然恐ろしい。これはさすがに倫理に触れてしまうだろう。義父演じるBBゴローの怪演は見事だが、このシーンの歪さは特にすごい。音楽についても全体的にインダストリアルな曲が多く、舞台となる工業地帯と凍りついたフミの世界とマッチしているが、傀儡のシーンでのアレンジはゾクゾクした。このグロとエロに頼らなくとも殺人的な演出を連発することがたまらなくクールだ。

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そして原作と異なる結末についても文句なし。まずこの作品に出演するだけでも奇跡といっていい福田美姫は、セリフがほとんどないなか、動きだけで充分すぎるほどフミを体現していた。そのフミが壮絶な展開を経て、感情を爆発させる様はお見事。その後エンディングへの突入の仕方は生気とともに魂を遥か彼方へ持っていくほどの余韻。たった鳥肌に染み入る音楽と夜の工業地帯まで完璧。ここまでの作品を手がけた亀井監督に脱帽。

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 過激なのは認めざるを得ないが、それだけにとどまらずカオスな独特の世界と、キャラクター、心に突き刺さるストーリーまで持ち合わせた稀有な作品。

倫理的に…などと言わずぜひソフト化してほしい。覚悟がある人にはぜひともオススメしたい一本だ。


Innocent Prayer Movie Trailer#2 映画「無垢の祈り」予告篇#2/HD